鈴木はセブン‐イレブン・ジャパンを創設し、社長となり、平成4年(1992)、親会社のイトーヨーカ堂の社長にもなる。同17年(2005)セブン&アイホールディングスを発足させ、コンビニ、スーパー、レストラン、銀行など7つの事業会社を統率している。
昭和7年(1932)長野県生まれの彼は、昭和31年(1956)に中央大学を卒業後、東京出版販売(現:トーハン)に入社する。6か月後に出版科学研究所に出向となる。そこで出版物に対するデータ収集と分析をやらされるが、ここで経営における2つの重要な視点を体得することができたという。それは統計学と心理学である。
データを作成する側を経験したことで、世間に出回るデータを見ても必ずしも鵜呑みにしない目が鍛えられ、ちょっとしたデータの変化にも突っ込んで考える習性を身につけた。
彼がのちに「現代の消費社会は経済学だけでなく心理学でとらえなければならない」と、心理学経営の重要性を唱えるのは、ここでの体験からである。
7年半の東販時代ののち、昭和38年(1963)に30歳でイトーヨーカ堂に入社。1972年、米国セブン‐イレブンと提携交渉を始めて3年後、セブン‐イレブン1号店を開店させるが、売上は大幅に増加しても在庫の山が原因で利益は出ない。
その原因は、商品の仕入れがロット単位であるため、よく売れるものはすぐ売り切れるが、あまり売れないサイズや商品はどんどん在庫が溜まるからだった。
彼は、のちに親会社のイトーヨーカ堂でも業務改革委員会を発足させ、「業革」と呼ばれるこのプロジェクトで徹底したのは、一つひとつの商品の売れ行きと在庫を管理する単品管理、特に死に筋商品の排除だった。
単品管理の重要性は、流通業だけでなくメーカーでも同じだが、彼はこの単品管理を全社に浸透させた苦労を、次のように語っている。
「『在庫のロスを減らせば利益は倍増する』。そう訴えて、不良在庫が利益を食いつぶす現状や、死に筋が滞留して機会ロスを生じさせている現実を直視させようとした。だが、営業担当者たちは『在庫を減らすと売り上げが落ちる』『豊富な品ぞろえこそがスーパーの特徴だ』と、過去の経験から抜け出せない。『販売経験のない人間に何がわかる』とまたも反対された。このとき営業部門を統括する常務の森田兵三さんが、『この際実行してみよう』と後押ししてくれたのは心強かった。
人間は仕事の仕方を変えることに強く抵抗する。改革はむしろ経営破たんした時の方がやりやすく、まだ大丈夫だと思っているときが一番難しい」(「日本経済新聞」2007.4.20)
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鈴木は「人間は仕事の仕方を変えることに強く抵抗する」と考え、コンビニ経営の店長募集にも「経験不問」としています。
過去の経験や成功体験が、かえって顧客データを重視する経営の障害になるためでした。情報技術の著しい発達により顧客データ、天気情報などあらゆるデータの収集が容易になっているので、変化の激しい今日、そのデータを素直に読み、取り組む必要があります。
単品管理が基本
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