異色の登場人物

 おもしろい人が書いているものだなあと思ったのは、古美術商「不言堂」初代の坂本五郎と米国の美術収集家・ジョー・プライスが登場したときです。
 芸術家など作品を作る方々の登場は多いのですが、この二人は、作品を見るほうの立場を伝える中で、古美術の鑑定の仕方や価値ある美術品を収集する美的感性と執念を教えてくれています。
 坂本は本場英国のオークション会場に出かけて、狙い品を競り落とすスリルなどを、またプライスは江戸時代の伊藤若冲や日本画家の技術水準の高さを丁寧に語ってくれていました。職業のユニークさに加えて、美術の鑑賞眼の説明も興味深いものでした。

 また、三船久蔵(講道館十段)は昭和32年(1957)に柔道家として初めて登場し、恩師の嘉納治五郎から「心神一致」を教えられたこと、自らあみ出した7段空気投げや晴れの天覧試合などの描写に胸を躍らされたものでした。

 沢田美喜(エリザベス・サンダース・ホーム園長)は、三菱財閥の三菱久弥を父に持ち、夫で外交官の沢田の赴任先が世界各地であったため、その孤児院施設の教育や指導を知り、それに感動して日本でも戦争孤児の施設を創る。この沢田の発想と行動力も異色のものでした。

 また、徳川義親は尾張徳川家第19代当主であり、政治家、植物学者、狩猟家でもありました。戦前は侯爵・貴族議員で、軍政顧問として太平洋戦争にも関与したが、有名なのは戦前マレー半島で虎狩りをしたことから虎狩りの殿様として親しまれた方だった。殿様の生活ぶりと豪放さに異色を感じたのでした。