後継者候補とその選考

勇退を決意したジャック・ウェルチが後継者に誰を選ぶか……。最高経営責任者(CEO)最大の課題だった。
 レグ・ジョーンズGE前会長が、昭和54年(1979)1月から2年かけてウェルチを後継者に選んだが、その間、ウェルチは直接前会長からインタビューを何度か受け、「GEの課題」や「その解決策」など、資質を試される質問を数多く投げかけられた。
 前会長は並行してほかの候補者にも同じように質問を繰り返しながら、それぞれの長所や短所、知性、指導力、人格的な信頼性、それに外部でのイメージなども聴取した。そして誰が誰とウマが合うかも知りたがり、各自の回答を求めた。
ウェルチはこのときの経験を活かし、自分が20世紀を締めくくり、新会長が新世紀の門出を担うことを想定し、平成6年(1994)春から、次のCEO選びに取り組み、6年かかって1人に絞り込んだ。
後継者は最低10年間は勤めることを前提に、交通事故などの緊急事態が発生した場合に誰がふさわしいかというリストをつくった。最初にあげたのが23人。全事業部門の優秀な人材を網羅し、最年少が36歳、最年長が58歳だった。その全員について、2000年までにどんな仕事をしてもらうべきかを考え、特に若い人には国際的に活躍する場を設定した。
ウェルチが後継CEO候補として重視した資質は、
①常に何を求めているか首尾一貫していること
②形式張らずに自由で気楽な雰囲気をつくれること
③傲慢(ごうまん)と自信の違いを知っていること
④人が第一、戦略は二の次と心得えていること
⑤実力主義で明確に差別待遇できること
⑥現場主義者であること
の6点で、厳しく人選を行なったという。そして社外重役を中心とする経営開発委員会に、次のように委ねた。
「経営開発委員会に『理想のCEO』の条件と候補名を示し、以後、二十三人の人事異動はすべてCEOに足る人物かどうかをテストする形で行なった。毎年六月、十二月の経営開発委員会にはその結果を報告した。社外重役たちが候補者たちと接する機会として四月、七月にはゴルフ・コンペやテニス大会を開き、夫婦同伴のクリスマス・パーティも催した。九十八年六月に候補を八人に絞り、同年末には最後の三人にまで絞った。(中略)
そして、私はジェフ・イルメイトを選んだ」(「日本経済新聞」2001.10.30)
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 一般的に、日本の社長在任期間は長くて3期(6年間)です。順調に業績を伸ばすことができれば、代表権をもった会長として2期または3期まで会社にとどまり、経営にタッチすることになります。
 しかし、役割分担で経営の執行は社長に任せ、会長は財界活動や業界団体活動に軸足を移していきます。ところが外国の場合、CEOは社長兼会長で経営の全責任を負い、経営も業界団体活動もすべて担当するのです。
 そのため、後継社長は少なくとも10年以上担当できるタフな精神と肉体をもち、有能な人物でないと務まりません。その人材を選択するために複数の社外役員を入れ、公平性と透明性を加味し、慎重に時間をかけるのでしょう。