川村勝巳 かわむら かつみ

化学

掲載時肩書大日本インキ化学相談役
掲載期間1981/04/01〜1981/04/30
出身地栃木県佐野
生年月日1905/05/01
掲載回数30 回
執筆時年齢76 歳
最終学歴
一橋大学
学歴その他東商予科
入社三井物産
配偶者三井重役娘
主な仕事大日本インキ(DIC)、日本染料薬品、呉羽化学、RCIと合弁、日本バイリーン、川村理化学研究所、スピルナ
恩師・恩人
人脈大河内一男(3中)中山素平・川又克二・朝海浩一郎(東商大)、伊藤忠兵衛、江戸英雄、海老原一郎、飯田善國
備考父・印刷インキ製造創設、娘婿茂邦(長銀)
論評

1905年5月~1999年、群馬県生まれ。実業家。大日本インキ製造(現・DIC)会長。三井物産に入社したが、32歳の時に退社し、化成品の会社を設立する。その後、父が死去したことから、父が創業した川村インキ製造所を前身とする、大日本インキ製造(現・DIC)の社長に就任。インキだけではなく、有機顔料、PPSコンパウンドなども手掛け、同社を世界的な化学メーカーに育て上げた。現在、世界の60を超える国と地域にグローバルに事業を展開している。

1.悲惨を極めた工場跡(3月10日)
空襲が激しくなるにつれ、父はインキ工場の地方疎開を決意し、宮城県涌谷に機械や原料を運び始めた。そして20年(1945)3月9日。数百機にのぼるB29の編隊が深夜、本所、深川を中心とする下町一帯に反復爆撃を加え、10日未明まで数時間に及ぶ大空襲で、この地域は完全に灰燼に帰した。勿論、本所区の大日本インキの本社事務所、工場とも全滅した。
 10日早朝、私は本所の焼け跡に入った。二葉町周辺は、すっかり焼け落ち、電信柱は斜めに倒れ、道路は真っ黒に焦げた焼死体がごろごろ横たわっている。避難している人でもいないか、と少年時代に通った二葉小学校に入ってみた。プールの方へ行くと、密集して、しっかり重なり合っている人の群れがある。子供を連れた大勢の女や男、老人や若い人たちで、中の一人のおかみさんは、私に「ゆうべは大変でした」と話しかけんばかり。髪は少し乱れていたが、血色もよく、おぶった子供も赤ら顔だった。
プールに三段ぐらい重なって、お互い絡み合っている数百人の人たちは、皆そのまま、まるで生きているかのように、傷一つなく死んでいるのだった。私は、そのロウ人形のような死人の山に恐ろしくなり、足早にその場を逃げ出した。

2.製造業は土地の確保が大事
父の跡を継いだ翌34年(1959)、私は早くも社長として大きな決断を迫られることになった。千葉県が市原地区に開発した京葉工業地帯への進出問題である。30年代に入って、日本の化学工業は石油化学への道を歩み始め、当社としても化成品、合成樹脂部門の拡充、発展に備えるため市原地区には是非進出しておきたかった。それは大日本インキが父以来の中小企業的な段階を抜け出し、総合化学工業を目指す第一歩でもあった。さいわい三井不動産の江戸英雄さんとの面識もあり、この土地10万坪を買うハラを固めた。
 父が生きていたら、恐らく承認しなかっただろう。というのも、当時1万坪の土地に工場を作り、整備をするのに10億から15億円の金がかかった。10万坪ともなれば、ざっと100億から150億円の資金が必要なわけだ。まだナベ底景気の最中であり、私自身ですら購入を決めるまでには、だいぶためらった。しかし、土地は生産会社にとっては第一の基盤である。投機的、思惑的ではなく、将来自社工場として使うめどがあるなら、寝かせておいてもできるだけ土地を買うべきである。

3.事業部制採用で1000億企業に
私は大日本インキを早期に成長させる方法を自分なりに考えた。年間1千億円の商売を作ることは、なかなか容易ではない。しかし月商10億の事業部を9つ作れば、年商1千億になる、と考えた。これは容易だ。
 そこで、既に事業の3つの柱として縦割り組織にしていた印刷インキ、化成品、合成樹脂の3部門を基礎にして、その関連事業を検討した。まずインキから印刷機を中心にした「機械事業部」を新設し、世界で最も信用のあるドイツのローランド平版印刷機の総輸入権をとって充実させた。次いで着色の面で化成品の顔料とも不可分であり、同時に合成樹脂とは“川下関係”にある樹脂成型部門、「プラスチック事業部」を作った。また合成樹脂の”川上“にあたり、石油化学の一部であるスチレン系及びブタン、ブチレン留分を原料とする「石油化学事業部」を設けた。さらに化成品事業から「生物化学事業部」を分派させ、プラスチック事業部から化学品系の「建材事業部」をつくり、これに従来からあった「海外事業部」を加え、9事業部とした。 
 私は社長就任の33年(1958)度上期から、各事業部に厳しい独立採算制を課し、それぞれの担当役員、事業部長に経営を一任した。

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