母のしつけ

 J・ウェルチが生涯で最も大きな影響を受けた人物は、母親だった。
 小学校に通う頃、母親から「人より秀でなければならない」と教えられていたという。
 一人息子だったウェルチは、背丈が低くて吃(ども)りがちなため、内向的な少年だった。吃るのは、母親が「あなたは頭の回転が速いため言葉が追いつかないのよ。心配いらない」と自負心をもたせたり、トランプゲームに付き合せ「勝負の面白さと競争心」を教えてくれた。
 この、ゲームの競争心が背丈のハンディの克服と、その後の野球、ホッケー、ゴルフといったスポーツへの興味、そしてビジネスへの情熱へとつながっていった。ここで培われた自信と誇りが、成長後の彼の生き方に大きな影響を与えたのである。
 ウェルチが幾多の大胆な経営革新を行ない、GEを世界最強の優良企業に育て上げることができたのも、自分に対する絶対的な自負心をもてたからだった。
 彼は、その家庭教育の原点を振り返り、こう感謝している。

「母が私にくれた最高の贈り物をたったひとつだけ挙げるとすると、それは多分、自負心だろう。自分を信じ、やればできるという気概を持つことこそ、私が自分の人生で一貫して求め続けてきたことであり、私と一緒に働く経営幹部一人ひとりに育(はぐく)んでほしいと願ってきたことだ。自負心があれば、勇気が生まれ、遠くまで手が伸びる。自分に自信を持つことでより大きなリスクも負えるし、最初に自分で思っていたよりもはるかに多くのことを達成できるものだ」(「日本経済新聞」2001.10.3)
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 吃音のウェルチを、「あなたは頭の回転が速いから言葉が追いつかないのよ」と励ました母の言葉は心を打つものがあります。
 母親のこの言葉は、ウェルチにとって最高の自信となったでしょう。
しかし、彼が高校3年のとき、主将をしていたホッケー部が最後の試合で惜敗します。そのとき、悔しさのあまりスチックを氷上に放り投げたウェルチを見た母親は、その行為に対して大衆の面前で彼を大声で罵倒するほどの烈女でもありました。
 母親は36歳の高齢出産だったため、一人息子のウェルチに対する教育が熱心なものだったそうです。幼少年期のウェルチに対する彼女の教育指導法は、「私の履歴書」連載中、大好評だったと聞いています。