熊本生まれ、東京帝大法科大学〔明治38年〕卒、大蔵省を経て、明治39年三菱合資会社に入社。諸規則の明文化、社史編纂などによる資料の整備、定年制の確立などに力を尽した。大同燐寸社長。10年日本カーバイト工業を創立、以後30年間、86歳まで社長を務めた。
奥村は酒に関して一家言の持ち主でした。彼によると酒飲みの種類を3つに分けている。①どんな酒でも飲んで酔い、言いたいことを言い、やりたいことをやる。そうした明るい気分になるために飲む人。②酒がのどをこすって通過するとき、感触を味わうために飲む人。③最後は酒の味わいを味わう人である。そのどれがいいかは人の趣向によるもので是非はつけられないが、彼自身はこの三番目に属していた。つまり酒の味はよく味わいながら飲む酒なのであった。
彼によると、酒の味わいというものは千差万別で、銘柄の固有の味を失わないように、また好みに合うように飲むにはおカンを何度にすればいいか、盃をどんな材料で造ったどんな形のものがいいかということなどを重要視しなければいけないという。これらが一定の条件にあれば、酒もまた一定の味を出すし、条件が変われば味も違ってくるからだ。しかし「今日、瀬戸物を作る人、料亭の人、いずれも皆さかずきについては美術的感覚のみとらわれていて、この酒にはこの形の盃がいちばんいい味を出すというようなことを考える者はまずいない」と嘆いている。そして彼の真骨頂を次のように述べている。
私の長年のさかずき研究の結果では酒の味と最も関係があるのはさかずきの唇のあたる縁のところである。この形がくせもので、縁が外側にカーブしているものと、そうでないものでは味が違ってくるのである。しかし、一般の人はさかずきの上部がひらいていようがいまいが、そんなことお構いなしで、あいつがお酌してくれた方がうまい、といったことしか考えない人が多い。ということで、私はいろいろな種類のさかずきを集めた。戦前は五百個ほどもあったが、戦後住居を進駐軍に接収されたりして多数散逸した。
有田焼の陶芸家・酒井田柿右衛門も同じように、縁が外側にカーブしているこの盃を「私の履歴書」の担当記者に推奨していますから間違いがないのでしょう。
私も早速、縁が外側にカーブしている平らな盃を買い求め、ぬる燗で飲んでみました。確かに口に酒を含んだとき、ふわぁーと酒の香りと味が口中いっぱいに拡がります。そうかこのように酒の味をあじわいながらチビリちびりと飲むのが正統派なのだなぁと納得はできた。しかし、私は親しい仲間と好きな色や形のぐい吞みで、ワイワイと楽しみながら飲むのが好きである。仲間に全国で20人程度しかいないシニア利き酒師が居て、彼が主宰して全国各地の名酒を取り寄せ飲ませてくれる。大吟醸や吟醸酒、純米酒、本醸造酒などその種類によって、冷やしたり、吟醸酒は40度などその適温で飲ましてくれるので、酒好きの仲間たちはそれだけで幸福感を感じる。そして悪酔いしないように水も勧めてくれるだから健康にもよく楽しい会になっている。
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