昭和12年(1937)長崎県生まれの江頭は、同37年(1962)一橋大学を卒業して、味の素に入社する。そして62年(1987)取締役に昇進するが、評価される分岐点は次の大事件だった。
昭和50年(1975)にサラダ油などの食用油脂業界に大事件が起きた。それはアメリカの港湾ストをきっかけに原料価格が暴騰したからだ。その結果、その年度の決算は業界全体で800億円の赤字となった。味の素も油脂部門も80億円の赤字を出す惨状となった。
 油脂業界は、日清製油、豊年製油、昭和産業、吉原製油、味の素などメーカー数は多いが、製品の品質はほとんど違いがなかった。したがって行き着くところは当然価格の勝負になり、原料価格が上がると各社はたちまち大赤字になる体質だった。
 江頭は、原料の大豆は大部分を輸入に頼っているが、運賃をかけて運んできて絞ってつくった油が、ミネラルウォーターより安くなる業界体質から抜け出さないと企業の安定はないと考えた。
 そこで次のように「高い値段で売れる付加価値のある油を売る」と決心し、大勝負をかけ成功する。
「食用油脂の原料は大豆、菜種、トウモロコシ、ゴマ、紅花などいろいろあるが、サラダ油は大豆と菜種をブレンドするのが一般的だった。
 トウモロコシにはコレステロールの低下作用を持つ成分が他の油脂原料よりはるかに多く含まれていることは知られていた。しかし価格が他より高いため、これを主原料にした製品をつくろうと考えた人はいなかった。
 原料コストは高くても、健康に良いという付加価値をアピールすれば、高い値段で売れるかもしれない。私はそう考えてコーン油を製品化し、通常のサラダ油より五割高い値段で販売することにした。私の「再建屋」としての評価を賭けた大勝負だった。成否は消費者に「コーン=健康に良い」イメージを浸透させることができるかにかかっていた」(日本経済新聞2006.11.2)
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 商品のよさとは、素材、デザイン、香り、味、サービスなどいろいろな要素がありますが、ヒット商品が出ると、各社の生産技術は平均して優れているためすぐ類似品が市場に出回り始めます。
 いかに自社商品を付加価値づけて消費者に提供できるかで、優劣が決まります。付加価値付は、顧客ニーズや消費者動向を見極めながら、自社品の特徴をタイミングよく打ち出す必要があります。「言うは易く行うは難し」ですが、この競争で企業は日夜骨身を削っているのです。