掲載時肩書 | 中部電力相談役 |
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掲載期間 | 1977/07/27〜1977/08/21 |
出身地 | 栃木県馬頭 |
生年月日 | 1900/01/25 |
掲載回数 | 26 回 |
執筆時年齢 | 77 歳 |
最終学歴 | 慶應大学 |
学歴その他 | 慶應予科 |
入社 | 九州電燈鉄道 |
配偶者 | 松永安左衛門姪 |
主な仕事 | 九電+関西電気=東邦電力、中部配電+日本発送電=中部電力,中経連会長、ラグビー協会会長、電力中央研究所 |
恩師・恩人 | 海東要造 中電会長 |
人脈 | 宮島清次郎(中学先輩)、竹岡陽一、井上五郎、木川田一隆、芦原重義、加藤乙三郎、赤倉一郎 |
備考 | 祖父&父:町長、広島で被爆 |
明治33年(1900)1月25日~昭和58年(1983)、栃木県生まれ。実業家。中部電力社長、会長を歴任。中部経済連合会の会長など、中部圏の経済界をけん引した人物として知られる。
1.電気部門のセールス活動
昭和2年(1927)の東邦電力名古屋支店の電灯営業案内を見ると、定額灯の電球は会社負担、従量灯は需要家負担となっており、電球の代価は8,16燭光(タングステン真空ナス型)が35銭、50燭光(同)45銭、また新型電球として出回り始めたガス入り電球は40ワットが40銭、100ワットが80銭であった。
電灯勧誘には、1件につき5銭か10銭の奨励金が社員に支給されていた。勧誘商戦は家庭用電灯だけに止まらなかった。アイロン、扇風機、電気七輪(コンロ)などの家電製品による一般家庭電化を始め、家内工業の電化・電動化(各種の電気乾燥機やパン、かば焼き製造の電気利用など)、農業、工業の電化普及など、当時として考えつくす全ての電化推進を図った。
特に私が担当して力を入れたものに、農業電化事業がある。政府は不況対策の一つとして大正12年(1923)に農事電化協会を設立、農村振興策を唱えていたが、私もその一環としてこれを進めたわけである。
2.電気事業再編成の裏話
戦後、占領軍(GHQ)は日本の民主化のために幾多の指令を発した。勤労奉仕体制だった従業員に労働組合を組織させた。中部配電も財閥、独占解体の一環として過度経済力集中排除法の適用をうけることになった。そして、日本発送電、9配電会社はそれぞれ企業編成計画を提出することになった。ところが、日発側の案は民友民営の全国規模発送配電一社の案、これに対して配電側は民友民営で日発を9つに解体、配電と発送電一貫経営のブロック別9会社案になった。要するに、日本の電力をどちらかにすることだ。
やがて松永安左エ門さんが、電力再編成案をつくる電気事業再編成審議会の5人委員の一人に選ばれた。氏はメンバーのうちでは戦前派でただ一人追放されなかった人だ。長老格の故をもって、委員長に選ばれた。氏は早速、業界知識人や有識者を呼び構想立案作業を始められたが、最終的には配電側の9分割案となった。これを審議会に諮られたが、他の4委員は強力に1社案を主張したのであった。
敵はむしろ、他の委員の背後にいる政治であった。このころの松永案支持の配電首脳は、関東配電の高井亮太郎社長、木川田一隆常務で、関西配電は五島祐社長、芦原義重常務だった。その配電の横の連絡会議も、やはり作業を始めたので、私はのちに巨大な業績を挙げられた木川田さんや芦原さんと同志的なつながりができるようになった。
かくて論争は何回となく続けられ、マスコミは虎ノ門の政府の通産省電力局と銀座の松永事務所を対比して、「虎ノ門電力局対銀座電力局」などと野次ったりした。ついには、松永氏はGHQを説得することに成功され、ポツダム政令によって松永案による電力再編成が昭和26年に実施されることになったのである。
3.電力中央研究所を引き継ぐ
松永翁は終戦の年、すなわち昭和20年(1945)には既に71歳であった。あの戦後の不自由な時代に電力再編成では超人的な活躍をされ、その後も亡くなるまで気力、知力は衰えなかった。松永さんが亡くなった(1971)後、生前務めていた財団法人電力中央研究所の後任理事長を選任することが緊急課題となった。木川田さんや芦原さんたちが「横山君が適任だ」ということで、結局私が引け受けることになった。
この研究所は、いわば電力業界のシンクタンクである。電力再編成が一段落した後、松永翁は今後の日本電力業界の発展のため、経済、技術両面にわたる総合的研究機関の必要を絶対として設立したものだ。現在は、東京大手町に本部ならびに経済研究所、情報処理研究所を、都下狛江市に電力技術研究所、エネルギー・環境技術研究所を、千葉の我孫子市に土木技術研究所および生物環境研究所を置き、原子力発電、環境保全、UHV送電、大電力送電、省エネルギー、経営経済ならびに情報処理などに取り組んでいるが、翁の卓越した洞察力には今さらながら頭の下がる思いがする。