掲載時肩書 | 安田火災海上名誉会長 |
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掲載期間 | 2002/02/01〜2002/02/28 |
出身地 | 愛媛県 |
生年月日 | 1923/03/06 |
掲載回数 | 27 回 |
執筆時年齢 | 79 歳 |
最終学歴 | 法政大学 |
学歴その他 | 松山商業 |
入社 | 安田火災 |
配偶者 | 社内結婚(聖書研究会) |
主な仕事 | 呉所長、ひまわり生命、損保ジャパン、「あすなろ」研修センター、「未来塾」、「記念財団」メセナ、「救援投手賞」「ひまわりホール」 |
恩師・恩人 | 成田安正、三好武夫(義兄) |
人脈 | 千葉茂(松山商)、東郷青児、宮沢次郎、賀来龍三郎、鈴木治雄、黒川紀章、杉下茂、梅原猛 |
備考 | ゴッホ 「ひまわり」 |
1923年3月6日 – 2002年11月27日)は愛媛県生まれ。実業家で、安田火災(現・損害保険ジャパン)元会長。社長時代に、ゴッホの名画「ひまわり」を購入したことは有名。1992年から経団連自然保護基金運営協議会会長となった。環境派の経済人としてさまざまな活動を行ったことでも評価が高い。
1.安田火災のルーツ
当社の起源は、日本初の火災保険会社として1888年(明治21)に創業した東京火災にさかのぼる。町火消として知られた東京火災である。明治に入り東京には消防制度が導入されたが、江戸時代からの町火消し「いろは四十八組」も予備員として消火活動に協力した。東京火災は独自の消防組を結成した。保険契約者の家には金属製の契約証が打ち付けてあり、火災の被害を受けると率先して消火に当たった。
しかし1892年の神田の大火では保険金の支払いが会社の資産で間に合わず、経営陣が私財を提供する事態まで追い込まれた。そこに登場したのが安田善次郎だ。富士銀行の前身となる安田銀行を設立していた安田は、93年に東京火災の経営を引き受けると同時に、海上保険の帝国海上保険を設立する。戦中の企業統合の国策により両社と第一機罐が合併、1994年に安田火災として再スタートした。
2.積立ファミリー保険
「損害保険は掛け捨て」というイメージを持っている人が多いが、損害保険会社の資産でみると、全体の4割は貯蓄性も備えた積立保険が占めている。貯蓄好きな日本人の国民性を反映しているようだ。その積立保険が急速に普及し始めたのが、私が社長に就いた1980年代前半のことだ。
中心となったのが、79年(昭和54)から売り出した積立ファミリー交通傷害保険である。交通事故などで契約者がケガをした場合に保険金を支払う補償機能と、満期金を契約者に還元する貯蓄機能を併せ持った商品だ。発売当初から人気となり、安田火災はこの商品の販売で3年連続業界トップとなった。
「積立ファミリー」のヒットは、当時の損保の潮流の変化を象徴している。掛け捨てから積み立て、企業物件から個人物件、モノ保険からヒト保険という3つの流れだ。とりわけ積立保険の成長は、運用資産の拡大に直結する。82年に資産は1兆円を突破し、機関投資家としての手腕が問われるようになった。私が提唱した「総合金融機関」には、こうした背景がある。
積立保険の商品開発や、それをきっかけにした運用体制の拡充は、総合金融機関化の序曲に過ぎない。自由化の流れはいずれ、生保や銀行との垣根を相互に開放していくだろうと予想していた。銀行業そのものに参入するつもりは当初からなかったが、隣接する業界である生保への関心は強かった。
3.ゴッホ「ひまわり」の保険会社
1987年3月31日、競売業者クリスティーズがロンドンで開催したオークションで、「ひまわり」を53億円で競り落とすことができた。落札価格は当時、絵画に付けられた最高価格だ。私自身、最初からこれほど高額になると予想したいたわけではない。オークション直前に入ってきた下馬評は40億円。現地からの報告より先にテレビが「53億円で落札」と報じて一瞬、「今回もダメだったか」という思いがよぎったほどだ。
バブル経済で、世界的に絵画の市場でも日本マネーが活躍していた時期だけに、欧米の一流紙の美術担当記者が国際電話で取材してきた。質問は「完全な保存ができるのか」「一般公開するのか」といった点に集中していた。最新の空調設備などを備えた美術館で保管・展示することを担当者が丁寧に説明すると、概ね納得してくれたという。ひまわりの記事は世界の新聞に掲載され「ひまわりの保険会社」として海外でも知名度が上がった。
87年7月、新宿の高さ200mの当社ビル42階にある美術館の真ん中に設けた一室に、ロンドンから届いたばかりのひまわりを掲げた時の感激は、言葉では言い尽くせないものがあった。美術館の来場者数は年間で平均20万人前後に達し、まもなく累計で300万人の大台に達しようとしている。一人でも多くの子供たちに世界一流の芸術に触れて欲しい願いもあった、95年から小中学生は入館無料としている。