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1889年長崎県生まれ。台湾製糖から中越水力電気支配人、昭和3年不二越鋼材工業を設立して取締役社長となり、精密工具の生産を始めた。17年衆議院議員に当選。戦後、経団連、日経連各理事、日本機械工業会副会長、日平産業取締役を兼任。晩年は不二越の関係会社ナチベアリング販売会長、富山テレビ放送社長、呉羽観光取締役などを歴任した。
(1)メジロ捕り:
井村によると、よく山に遊んだ。山といってもすぐ家のうしろが山だった。そこには椿の花が咲いていて、メジロとりをやって遊んだ。1.5mぐらいの椿の枝を切って、それに囮(おとり)の籠をつるす。切った椿の枝には赤いいくつかの花がついている。椿の花がメジロを誘うのだという。「梅に鶯」なら「椿にメジロ」で、椿は早春の花だから、メジロの鳴く声を聞くと、春が来たと思い、春を告げる鳥だとも思った。
山には椿の花が多かったが、めじろもたくさんいた。とっためじろは飼いならす。めじろの中にはどうしても餌を食わぬやつがいる。ハンストなどというとすこぶる不快を感ずるが、餌を食わないめじろは偉い。これは放してやった。めじろは飼いならして啼きくらべをやった。
井村はやんちゃ坊主でもあったが、捕まえたメジロを放してやる心の優しい少年でもあった。私の場合の捕獲は、2mほどの竿の先に鳥モチをつけ捕まえたが、メジロの羽が鳥モチで傷んでしまい、長生きはしてくれなかった。可哀そうでそれ以後は止めた。
(2)ひばり捕り
四、五月になると今度は、ひばり捕りのシーズンとなる。ひばりもたくさんいたようだ。麦畑はもとより、藪にもよく巣をかけたという。そして次のように書いている。
麦の穂が出かかるころになると、ひばりの卵がかえる。ひばりが餌をくわえておりるから、ヒナがかえったことがすぐにわかる。ひばりは侵略者を警戒して自分の巣にはすぐおりぬ。手前で降りて、地べたをはって巣にゆきつく。カンでその見当をつけるのだが、うまいものだった。(中略)ひばりはどういうものか不思議に一番子がオスだ。二番子は大抵メスだからいけない。二番子と知らずにメスを育てるなどということは、村の悪童連にとってこれ以上の不見識はなかった。
ひばりの子を育てるのは、卵からかえったばかりの、目の開かぬうちに連れてこなければならぬ。ひばりの子はすり餌をやるとすぐ食う。ひばりはめじろと違って、きっと餌につく。目が開くと、餌の皿にくちばしを持っていく。かわいいものだ。ひばりほど飼いやすいものはない。めじろはしょっちゅう水浴びをする。ひばりはどういうものか水浴びはしない。砂をおいてやるとひばりは砂を浴びる。
生まれた一番子はオスで二番子がメスとか、ひばりの子はすり餌をやるとすぐ食うとか、メジロは水浴びでひばりは砂浴びするとの言葉は、よほど自然に親しみ、小鳥たちに愛情を注いだ人だと想像できます。私の場合は、麦畑にひばりが良く巣をつくっていたので、そのヒナを良く捕まえることができた。しかし、うまく育てられなかったので以後は捕獲を止めました。
(3)うなぎ釣り
めじろ、ひばりに続いて、うなぎ釣りの季節が来るそうだ。彼の生まれた家の近くには小さな川が流れていた。小さな川だがそこには、うなぎがたくさんいた。その川が海に注ぐころ、右岸の高地が島原城跡であったという。彼のうなぎ釣りは竿の先に釣針をつけて、餌にかえるやみみずをつける。そして、
うなぎのいそうな石垣の穴や石の下ねらって竿の先を突き出す。そっと手元にたぐり寄せると、うなぎが頭を出してくる。それをうなぎ鋏で、さっとはさむ。うなぎ鋏は刃部が鋸刃のようになっている。うなぎは夜でも昼でもとった。うなぎ鋏は店で売っていた。
それほどうなぎは多かったのでしょう。私の場合は、石垣の穴や石の下に、竿の先の釣針に大きなミミズをつけて、そっと入れる。その穴にうなぎがいるとアタリが来る。すると竿の先の餌が離れるようになっている。うなぎが咥えている餌を飲み込むまでじっと待つ。5~10分経つと飲み込む動きが鈍る。そのときを逃さず一気に、釣り糸を引き出す。うまくいくと多少の抵抗があってもうなぎは巣穴から容易に引き揚げられる。しかし、タイミングを逸すると餌を吐き出したり、巣穴の奥に潜り込んで引き揚げることができなくなる。引き揚げる瞬間がドキドキハラハラの緊張となりだいご味でもある。
(4)カニ捕り
秋は秋で、カニとりを楽しんだという。その方法は、
川のまん中をすこし残してV字形に石を積む。水がせばまって急に落ちるところに籠をしかける。籠はねずみ捕り器のように、逆さに出られぬようにしてある。かにはきょうは雨だという日に川を下るものだ。その習性を利用した。しかけておいて翌朝未明に出かける。二十匹や三十匹は入っていた。毛の生えている川かにで、小さいがとてもうまい。
アハハハです。こんなに簡単に捕れるなんて羨ましい。私の瀬戸内の河口の浅瀬では、潮が引くと直径2cmほどの穴が点在している。一つの穴を見つけると、その周囲1mほどを見渡すと必ず同じ大きさの穴が見つかる。捕獲網を一方の穴に被せ、もう一方の穴を足で強く踏み壊すと、クルマエビが慌てて他の穴から飛び出してくる。飛び出せば、仕掛けておいた網に飛び込むことになる。こうして1日に20匹ぐらいは捕れた。
また、少し深い岩場では水中眼鏡をかけて潜る。イセエビを捕るのにタコの足を棒の先に括り付け、岩の隙間に差し入れヒラヒラさせると、エビはタコが侵入と勘違いし、慌てて別の出口から飛び出してくる。これに網を仕掛けて簡単に捕獲できたものです。これはタコがエビの天敵だからこの習性を利用した漁法です。もう一度、こんな漁をしたいなぁ。