私にとって日経「私の履歴書」は人生の教科書です

社内の重視順位

世の中の社会情勢や経営の環境変化で、経営トップの優先順位は違ってくる。
石川島播磨重工業(IHI)の田口連三社長は「営業の田口」の異名をとり、「他社商品との優劣はあまり変わらないのだから、社内で一番大事なのは営業力だ」と常に檄を飛ばしていた。
ところが、次の真藤恒社長は理路整然と「技術さえすぐれていれば、先方は黙って応対してくれる」と反論していたと、後輩社長の稲葉興作は「私の履歴書」で語っている。
どちらの社長もすぐれた経営力を発揮したのだから正しいと思うが、一般的には「販売の○○」と「技術の○○」を標榜して営業している場合、「販売の○○」という会社のほうが成長してきた傾向があるようだ。
キリンビールの佐藤安弘は、長らく傍流部門を経験したのち、社長となり苦労の末、発泡酒、缶チューハイ、ウイスキーの投入など、総合化戦略でライバル企業との市場シェアの低迷を食い止め、上昇気流に乗せたことで高く評価されている。
その彼が、自分の役員退任挨拶で社員に再確認を求めたのは、「売上を上げないと利益を上げられない」という観点に立った、社内における重視順位だった。

「最後の取締役会では『会社で一番大事なのは営業だ』と強調した。二番が製造で、私が長く携わった経理など間接部門はその次である。ビール会社はどぶ板踏んで一本一本売って歩くのが基本であり、販売できなければ生産してもしょうがない。こうした自覚があれば、間接部門もおのずと少数精鋭になるはずだ」(「日本経済新聞」2005.9.30)
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メーカーの場合、プロフィットセンターと呼ばれる利益を上げる部門は、営業、購買、生産などですが、営業部門が売りを上げなければ、他の部門もその能力を発揮できません。
企業は売上を上げ黒字化して納税しなければ、社会的に評価されません。この点を社員にあえて鋭く社内順位で指摘し、注意を喚起したものといえるでしょう。

ここでは、「私の履歴書」から「優先順位」について述べているものを紹介しました。
優先順位には、経営の順位、社内職能の順位、仕事の順位などがあり、それを各トップが明確化することで社員が共有でき、企業の羅針盤として働くエネルギーにつながっていることがわかります。
ヤマト運輸の小倉昌男は「私の履歴書」のなかで、「出向先の運送現場には『能率向上』の貼り紙はあっても『安全・第一、能率向上・第二』はなかった。この職場で運転事故が多発するのを見て、『安全・第一、能率向上・第二』と明確に順位づけ、周知徹底を図り事故を激減させた」と述懐しています。
市場環境や職場環境によってその順位が変わることがありますが、この順位明示も経営トップの重要な仕事になります。


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