私にとって日経「私の履歴書」は人生の教科書です

国民へ

八十年近い人生で身に染み付いた思いは日々新たに確信の度を増している。それは、お客様は来て下さらないもの、お取引先は売って下さらないもの、銀行は貸して下さらないもの、というのが商売の基本である。だからこそ、一番大切なのは信用であり、信用の担保はお金や物ではなく人間としての誠実さ、真面目さ、そして何よりも真摯である、ということだ。
 爛熟期を迎えた日本は成功の裏で大きなゆがみを蓄積したまま、考えられないほど豊かになりすぎたのではないか。政治や行政、金融などゆがみは様々だが、根っこにあるのは人間の問題だと思う。
 日本人は食べられることの有り難さを忘れ、自分たちがいかに贅沢をしているのに気づかず、それを当たり前と思い込んでいる。驕れる者久しからず。感謝の心を忘れ、己の力を過信する者の末路は、洋の東西、時代の今昔を問わない。そういう私自身、バベルの塔を上り詰めた愚か者ではないかと自問している。恐ろしいことが待ち構えているような気がしてならない。
中略。
 日本人、そしてヨーカ堂グループの社員には、自分たちがいかに恵まれているかに思いをいたし、謙虚になって志を立て、明治維新、戦後改革に続く第三の創業に挑戦してもらいたい。そうすれば、必ずや、明るい未来が開けると確信している。
(「私の履歴書」経済人三十八巻158,159p)


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