私にとって日経「私の履歴書」は人生の教科書です

不本意な出向

会社の傍流を歩いて社長になった佐藤は、発泡酒、缶チューハイ、ウイスキーの投入などアルコール総合化戦略で市場シェアの長期低迷を食い止め、ライバル企業を追い越す上昇気流に乗せたことで高く評価された。

昭和11年(1936)、東京生まれの佐藤は、同33年(1958)、早稲田大学を卒業し、キリンビールに入社する。その翌年、神戸支店営業課に配属となるが、実態は内勤で、キリンで花形といわれた営業とは違い、空き瓶回収の伝票処理などの地味な仕事だった。
 赴任して半年後、彼は上司に支店全体の業務や人員配置の見直しを求めたが無視される。この上申を快く思わなかった支店長に「きみは中小企業のほうが向いているよ」と屈辱的に言われ、不本意な近畿コカコーラボトリングへの出向となる。
 出向前の東京での研修の際、「ルートセールスの担当だ」と言われ、トラックに乗って朝から晩まで都内の小売店を走り回ったが、実際に現地に出向してみると、また、仕事の内容が違っていた。
 仕事は内勤職で、上司である年配の部長と、社員は実質彼1人のようなものだった。しかし、与えられた仕事を、1つひとつ誠意をもってこなすことで、実務のエキスパートになることができた。
 この出向で、彼は次のような「悟り」を得ることができたと述べている。

「定款こそできていたが、経理に関する規定は何もない。走りながら考えるしかなかった。開業に必要となる大阪府や大阪市、税務署への届出も期限ギリギリに間に合わせた。
 固定資産の減価償却は『定率法』か『定額法』か。在庫評価は『後入れ先出し法』か『総平均法』か…。まだ社会人になって三年目だったが、次から次へと経理のルールを決めなければならない。疑問点があると、原価計算や簿記の辞典と首っ引きになって考えた。仕事に追われながら、人間、どこへ行っても勉強はできるなと思った」(「日本経済新聞」2005.9.8)
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 会社や社会の仕組みを、原点から実務で経験している人は強い。
経済が右肩上がりで成長しているときは、営業型のリーダーシップが望まれるが、不況期や激動期には、堅実で実務的なリーダーシップが望まれます。
 頭では理解していても、地味な実務はなかなか素直に取り組めないのが人情です。しかし、この下積みに耐えて努力した蓄積が人間を成長させ、いざというとき、次のステップの出番に期待に応えることのできる人材になれるのです。

不遇時代の対処法
1. 失敗しても腐らない。必ず心ある誰かが見てくれている。
何事も粘り強く、あきらめないでチャレンジしていれば、道は開けてきます。必ず訪れる敗者復活戦のときに対応できるか否かです。そのときのためにも、不遇のときの努力は必要なのです。
2. 会社の発展のために努力すると、まわりから意外な同情が集まる。
現在社会から存在価値を認められている会社を発展させたいのは、労使とも共通の価値観です。真面目に職務に精励していれば、必ず共感する人が増えてきます。心ある上司ほど、評価してくれるはずです。社会的価値のある会社を発展させる努力をしましょう。
3. 仕事は明るく、前向きのスポーツ感覚で取り組もう。
いやいややる仕事は能率が上がりません。楽しく取り組めるような工夫をすることが求められます。自分流の〝仕事を楽しめる努力〟をしましょう。
4. 出向は試練と受け止めよう。
人生には無駄なものはありません。いろいろな経験が肥やしとなって、それぞれの人生を豊かにします。不遇時代は自身の成長のために必要な〝肥やしの時代〟と認識し、そこで体験するさまざまなことを次のステップアップの糧としましょう。


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