マラソンのスピードとペース配分

福岡県生まれ。高校卒業後、八幡製鉄(現新日鉄住金)に入社。1960年代から1970年代前半、戦後日本の男子マラソン第1次黄金時代に活躍したランナーである。また、オリンピックには3大会連続で男子マラソン日本代表として出場した。メキシコ五輪のマラソンで銀メダル。

それを、君原は次のように具体的に解説してくれています。

「100mを20秒で走ると、1kmが3分20秒、5㎞が16分40秒となる。このスピードを最後まで維持すると、フルマラソンのタイムは2時間20分39秒になる。100mのタイムが1秒遅れると、42・195キロでは約7分余計にかかる。たった1秒の差が積もり積もって大きな差になるのだ。」

これをさらに計算すると、100メートル当たり1秒縮めると2時間13分台、2秒縮めると2時間06分台。
2008年の北京オリンピックでの優勝記録は2時間6分32秒ですから、100mを18秒でフルに走ったことになります。
筆者の高校生時代の100メートル走のタイムは18秒台でした。自分が全力疾走しているのと同じかと、マラソンランナーの速さを改めて認識しました。

君原はマラソン選手として走る上でのロスを限りなく少なくしたいため、ムダなエネルギー消費を避けようと考え、身に着ける物の軽量化も図りました。
まず、時計・眼鏡は外し、靴下は履かない。さらにウォームアップも短縮したといいます。
そして次のように語る。

「マラソンとはいかに速く自分の体を42・195km先にあるゴールまで運ぶかという競技である。体が蓄えているエネルギー源(糖質と脂肪)は決まっている。それをうまく使いながら、できるだけ速くゴールする。
当然、スタートする前にペースを決める。しかし、理想のペースとは、その日の体調や気象条件によって変わる。だから、走りながらずっと、理想のペースについて考え続けなければならない。(略)
5kmまで行ったら、このままのペースで進んでも大丈夫だろうかと考える。修正が必要なら、37・195kmをどういうペースで走ればいいのかと計算する。疲労の度合いをチエックし、気温や風向きの変化を感じとることが重要だ。そうしながら、10キロ時点では残り32・195キロの、15キロ地点では残り27・195キロの理想のペースをはじき出し、速度を微調整していく。(略)
そういう意味でマラソンとは人との戦いではなく、自分との戦いなのだと思う。自分を見失わず、自分の理想のペースを守れるかどうかで結果は変わる」

この説明で私は、ペース配分とは何かをよく理解できました。
しかも、これに雨の日、風の日、上り坂、下り坂に面した場合、そして高い気温のときなど、自分の体調や体力の消耗度を計算しながら、スピードを変えるのですから、マラソンとはメンタルだけでなく頭脳の勝負でもあるのだなとも納得できました。
まさに、幾多のレースを走り抜いた経験者でないと語れない言葉でしょう。