ジャスト・イン・タイムは管理職の洗脳

全世界の工場が、原料の仕入から商品の発送までのリードタイム短縮による生産効率の向上をめざし、トヨタのカンバン方式「ジャスト・イン・タイム」をモデル採用している。
大正2年(1913)、愛知県に生まれた豊田は、昭和11年(1936)東京大学を卒業し、伯父・豊田佐吉が創業した豊田自動織機に入ると、従兄・喜一郎(豊田佐吉の長男)から、自動車開発を命ぜられた。
昭和20年(1945)取締役、常務、専務を経て42年(1967)、トヨタ自動車工業社長となる。そして国際競争力を高めるため、神谷正太郎加藤誠之らによって大きく成長したトヨタ自動車販売会社と、57年(1982)に製造・販売合併でトヨタ自動車を発足させ、会長として企業を大きく発展させた。
現在では世界中で採用されているトヨタのカンバン方式「ジャスト・イン・タイム」は、豊田喜一郎が考案したもので、挙母工場(愛知県豊田市)の移転時にこのシステムが導入されたものだと彼は次のように書き記している。
「いままでの刈谷工場では、鋳物からできた半製品をいったん倉庫に入れ、それから機械で削っていた。個々の部品についても、ピストンであれ、どんな部品であれ、「何個つくれ」という伝票が回ってきて、それが終わると次に「穴を開けろ」という指示がきていた。いわゆるロット生産だが、これを全部流れ作業にしたのである。
すると品物はたまらなくなり、倉庫もいらない。ランニングストックが減って、余分な金が出なくなる。逆にいえば、買ったものが金を払う前に売れてしまうわけで、この方式が定着すれば、運転資金すらいらなくなる。
喜一郎の考えた生産方式を要約すると、「毎日、必要なものを必要な数だけつくれ」ということになる。これを実現するには、全工程はいやでも流れ作業にならざるをえない。喜一郎は工場責任者として、この方式をいかに社内に定着させるか、知恵を絞った。(中略)
流れ作業の考えを、どうやって社内に定着させるか。なによりもまず従業員、とりわけ管理、監督にあたる人の教育を徹底させなければならない。画期的なことだから、旧式の生産方法が頭にこびりついた人から洗脳する必要がある。」(『私の履歴書』経済人二十二巻 447p)
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私の勤めた会社もトヨタ生産方式を導入しました。
トヨタの生産現場に詳しい専門家を招き丁寧に指導していただいたことで、2年後にはロット生産方式からランニング・ストックを大幅に削減できるリードタイム短縮(仕入‐生産‐発送するまでの時間短縮)方式で見違えるような生産改善ができました。
しかし、この成果が表れるまでに管理・監督にあたる管理職の教育にいちばん時間がかかりました。