黒田暲之助 くろだ しょうのすけ

その他製造

掲載時肩書コクヨ会長
掲載期間1986/06/01〜1986/06/30
出身地大阪府
生年月日1916/06/25
掲載回数30 回
執筆時年齢70 歳
最終学歴
慶應大学
学歴その他天王寺商
入社黒田国光堂
配偶者神戸女学院卒
主な仕事国誉=コクヨ、満州終戦、販売卸専門店発足、スチール製品進出、コクヨ社名変更、黒田緑化事業団
恩師・恩人善太郎 父
人脈父・富山県人会会長、琴ヶ梅(富山)、伊藤賢治、伊部恭之介、磯田一郎、浅井孝二、竹中統一
備考経営哲学「残りカスを生かす」
論評

1916年6月25日 – 2009年12月23日)は大阪生まれ。実業家。コクヨ名誉会長。実父はコクヨ創業者の黒田善太郎、実弟は黒田靖之助、実子は現在コクヨ代表取締役会長を務める黒田章裕、三女は小原流四世家元小原夏樹夫人、五世家元小原宏貴は孫。

1.商売の原点
明治38年(1905)、父は27歳の時、まず習い覚えた表紙張りの仕事から出発、大阪西区堀通り3丁目に黒田表紙店を構えた。父が、何かと目をかけてくれた人に挨拶に行った時のことである。「黒田はん、おめでとう。しかしよーく考えてみなさい。ええ仕事は世間様が先にやってしまっている。残っているのは滓(カス)の商売ばかりやと思いなさい」と忠告された。
 和表紙を作り始めた当初から、父の心はすでに「滓の商売なりに、もっと手広くできないか」という気持ちでいっぱいだった。その思いは、和帳本体の品質が表紙の責任にされる理不尽さへの反発も手伝って、和帳そのものへの製造へと繋がっていく。創業から3年目、明治41年〈1908〉のことだった。販路を広げるには良品を安く作るしかないが、さらに「小売店を1軒ずつ回っていたのでは能率が悪すぎる。卸問屋に協力してもらおう」ということになった。世間では代理店などと呼ぶが、父の考えはあくまで、一緒に仕事をしてくれる「仲間づくり」であり、後に「販売のコクヨ」を支える大きな輪となるのである。

2.販売のコクヨ(卸問屋が販売専門店に)
世評では「販売のコクヨ」とよく言われる。販売力の強さを認めてくださってのことと思う。「どうすればそんなにしっかりした販売組織ができるのか」と聞く人もいる。そう言われても自信をもって一言では答えられない。
 終戦直後の品不足時代、父は乏しい品物をやりくりして、昔からの得意先に振り向けた。原料紙が値下がりして製品の値段が安くなった時には、卸売店の在庫を調べ、評価損が出ないよう差額を補填することもした。ただの販売政策ではないか、という見方もあろう。しかし私は、こうした形に現れたものは、あくまで結果であると思う。一緒に仕事をする仲間を大切に、と願い続けた父の心が、文具用品の卸問屋の伊藤賢治社長などの心を揺さぶったと思うのだ。
 昭和32年(1957)頃には、20余りのコクヨ専門卸店が全国各地にできた。その年の1月10日のことだった。私の知らない間に、専門店各社が相談、同じコクヨ製品を扱う仲間の集まりとして「全国コクヨ専門店会」を結成された。この後全国各地に次々専門店が生まれ、1県に1社という形で、全国ネットワークが形成されていく。現在では64の総括店が一次問屋網としてあり、さらに二次店、小売店と整然と組織されている。

3.スチール製品への参入
昭和30年(1955)代前半になると、大企業への納品業者の間で、デスクやキャビネットなどスチール製品に力を入れる機運が出てきた。一方でIBMの日本上陸などが話題に上がり、オフィス革命が起きる兆しが感じられた。「早く流れに乗らないと立ち遅れる」感じがして、社内外の根回しも終え、足元を固めたうえで、弟・靖之助と二人、恐る恐る会長室の父の前に立った。
 「当社のルーズリーフは、とてもよく売れるようになってきました。それにつれてリーフを綴じるバインダーも好評です。最近では帳票類を収録するファイルの需要も増えてきました。そんな訳で、ファイルやバインダーを納める入れ物がどうしても必要になってきます。そこでキャビネットというのも一緒に作りたいのですが・・」。私たちは父の顔を見ながら、ここぞとばかり熱弁を振るった。すると父は「それは道理やな。なるほど、入れ物がないと不便や。よし、やりなさい」と、拍子抜けするほどあっさり許しが出た。
 キャビネットを皮切りに、ロッカー、デスク〈40年〉、事務用イス〈41年〉、学習机(42年)とスチール製品の種類はどんどん広がっていく。46年にはスチール製品の専門工場を大阪府柏原市に建設、いよいよ自社生産に乗り出したのである。

4.コクヨの基本精神
コクヨは「世の中に役立つもの、つまり価値の提供者」であり続ける。それを達成する手立てには2つの要素があると思う。一つは絶対に動かせないもの「常」であり、今一つはどんどん変えていかなくてはならない「変」である。「常」は良い製品を安く供給する、わずかでも利益を生み出し、正しく配分する、仲間をつくる、などだ。それは企業がある限り、変わることはない。「変」は、時代が求める製品の見直し、開発、新事業の開拓、そのための組織改革、設備の更新である。「常」と「変」の歯車がかみ合って初めて企業目的は達成できることになる。

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