野路國夫 のじくにお

機械・金属

掲載時肩書コマツ特別顧問
掲載期間2022/04/01〜2022/04/30
出身地福井県
生年月日1946/11/17
掲載回数29 回
執筆時年齢75 歳
最終学歴
大阪大学
学歴その他
入社コマツ
配偶者バスケット娘
主な仕事技術・実験部、米国駐在、現場ハンドブック、ERP導入、小松ウエイ、自律運転、人材開発センター、こまつの杜
恩師・恩人坂根正弘
人脈松井秀喜、北城恪太郎、大橋徹二(後任)、小川啓之(現社長)
備考社外交遊少なし
論評

小松製作所関係でこの「履歴書」に登場は、氏が河合良成氏(1957年7月)、坂根正弘氏(2014年11月)に次いで3人目である。特に最近では前任社長に続いての登場は珍しく、氏の業績が高く評価されたものと思われる。氏の社内地盤は「コマツフィールドハンドブック」冊子を作成したことのように思われた。

1.長期海外出張の成果(実験や調査記録を1冊に)
入社8年目の1976年に米アトランタ事務所に単身赴任で長期出張することになった。ここではとりわけコマツの機械が多く使われていた石炭の採掘現場にこまめに足を運び、ロッキー山脈やアパラチア山脈のあちこちに点在する約30の炭鉱を訪れた。ここで痛感したのが、最強のライバルである米キャタピラー社との品質の差だ。昼夜を問わず稼働する過酷な鉱山現場では、コマツの機械の方がエンジンなどに早く不具合の出ることが多く、原因追及と対策に追われた。当時は1ドル=200円台の時代。コマツ製は安くてそこそこの品質だったから売れていたが、円高などの環境変化で競争力を失えば、相手にしてもらえないのは明らかだった。
 また、忘れられないのは氷点下20度という凍てつく寒さをついて実施した寒冷地試験だ。真冬のピッツバーグに様々な機種を持ち込み、最も冷え込む午前5時ごろエンジンがスムーズにかかるかどうかテストするのだ。コマツの機械は標高の高い鉱山など寒冷な現場で使用されることも多く、寒さで動かないのでは話にならない。それを確認するための毎年恒例のイベントだった。
 帰国して一念発起して取り組んだのが米国であちこち調査して回った炭鉱の記録を纏めることだった。日本とは作業環境が違い、巨大スケールの現場ではブルドーザーひとつとっても長距離の掘削や大量の運土と倒木、後部の爪での硬石破砕など思いもよらない高負荷の使い方をされることもある。
 そうした種々の使われ方を纏めた実用書を、自分の実験部での経験、知見の集大成として約300頁の「コマツフィールドハンドブック」という冊子を作った。これが「図解入りで分かりやすい」と社内各所で評判を呼んだ。

2.コマツウエイ 「リーダー独善に歯止めの羅針盤
私は2006年7月に「コマツウエイ推進室」の初代室長に坂根正弘社長から任命された。坂根さんは自分の退任後も会社としてブレずに堅持すべき価値観をコマツウエイとして文書に纏め、末永く継承しようと考えた。社長から新入社員まで守るべきコマツの価値観を掲げて、各人がどう行動すべきかを示す行動指針を目指した。経営陣向けのマネジメントは坂根さん自ら筆をとり、全社員向けのモノ作り編は私たちの推進室で纏め、2006年に完成した。
 もの作り編では、品質と信頼性を追求するコマツのDNAを具現化するために、工師長などのタイトルを持つ「現場の神様」に直接取材して、様々な語録や品質管理の原則を導き出した。「五感を研ぎ澄ます」や「ナゼナゼを5回繰り返す」などである。
 マネジメント編には、坂根さんの「代を重ねるごとに強くなる」という思いが込められている。「リスクへの対応を先送りしない」など経営の原則を明記することで、その時々の経営者やリーダーの恣意的な振る舞いを抑え、会社の健全性を保つ羅針盤としているのだ。
 その後コマツウエイは2011年発行の第2版でブランドマネジメント編を加えて、お客様との信頼関係の重要性についても盛り込んだ。今では第3版まで版を重ね、全社員が常に参照する身近な存在になった。

3.ダンプトラックの自律運転化
2006年の暮れに坂根社長から「後継を頼む」と言われた。社長になって間もない頃に、資源メジャーの英豪リオ・ティントから豪州の鉱山にコマツの無人ダンプトラック運行システム(AHS)を導入して改良を加えたい、という提案があった。鉱山用の超大型ダンプトラックは積載量が約300トンで、日本の公道を走る最も大きなトラックのざっと30倍という桁外れのサイズ。タイヤの直径は約4mに達し、運転席には段梯子で乗り降りする。こんな巨大な車両が、鉱物を運び出すために24時間体制で働いている。過酷な労働環境のため人手不足となり、この会社はその解決策として当社との合同プロジェクトを組むことになった。そこで2008年に両社共同のチームを作り、コマツからも25人程度の技術者を派遣した。
 ダンプは積込場と排土場とを行き交うにあたり、衛星測位システムでルートを設定し、無線通信で車両をガイドする。1台の車両を24時間動かすには、ダンプ10台の現場だと運転手だけで総勢50人が必要だが、AHS(無人ダンプトラックシステム)を導入すれば、1500キロ近く離れたパースの街中に設置したコントロールセンターからわずかな人員で運行管理でき、大幅に省力化される。運用が始まると案の定、現場固有の様々な課題が見つかり、その都度システムを改良し、完成度を高めていった。
 この結果、人の運転より自動運転の方が走行が安定し、ムダなブレーキやアクセルを踏ませないので、燃費が10%以上改善した。また、タイヤの摩耗も少なくなり、寿命が2倍に。こうして鉱山会社のニーズに応えた無人運行システムは普及が進み、2022年2月時点で全世界17の現場で500台を超える車両が活躍しているのだ。

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