渡辺武 わたなべ たけし

行政・司法

掲載時肩書前アジア開発銀行総裁
掲載期間1973/04/24〜1973/05/22
出身地東京都
生年月日1906/02/15
掲載回数29 回
執筆時年齢67 歳
最終学歴
東京大学
学歴その他一高、ロンドン大学
入社大蔵
配偶者山川東大 学長孫娘
主な仕事預金部(前尾1上)、英国留学、欧州・米国旅行、満州、主計局、駐米公使、IMF世銀理事、帰国子女問題、アジア開発銀行
恩師・恩人ブラック世銀総裁
人脈福田赳夫、池田勇人(税務署後任)、宮澤喜一、ネール首相、佐藤栄作、藤山愛一郎、牛場信彦
備考祖父・大蔵大臣、父:司法大臣、メソジスト派、水彩画
論評

1906年(明治39年)2月15日 – 2010年(平成22年)8月23日)は東京生まれ。官僚。初代財務官。初代アジア開発銀行総裁。1951年(昭和26年)9月、サンフランシスコ平和条約を日本が締結した時、側面からサポートし、さらにIMF・世界銀行に日本を代表してオブザーバーとして出席し、加盟準備をする。1952年(昭和27年)7月、駐米公使に就任する。戦前からの日本の対外債務処理問題や日米二重課税防止協定締結にあたり、IMF・世銀加盟及び日本からの理事選出に対処した。1956年(昭和31年)、初代の湯本武雄の後を継いでIMF・世銀理事に就き、外資の借り入れ交渉や対日融資の増加に尽力した。

1.ダレス国務長官の対日構想
私は終戦後、大蔵省財務官としてGHQとの交渉担当になっていた。昭和25年(1950)、朝鮮動乱の勃発の直前に私は密かに東京でダレス氏と面会した。目的は占領の長期化が日米双方に禍根を残すから、平和条約の締結を促進して欲しい、ということを進言したかったからである。政府の誰に頼まれたというのでもなかった。ダレス氏はこの席上、極めて率直にソ連の戦力は今の米国の5分の一であるが、もし日本の工業力がソ連につけば、比率はそれだけ米国にとって不利となる。日本がどちらにつくかは日本が決定することだが、米国とすれば日本の工業力を徹底的に破壊して引き揚げることも出来ると述べ、平和条約の締結が米国にどのような利害関係をもたらすかを秤(はかり)にかけているようだった。
 昭和26年元旦のマッカーサー元帥のメッセージは「憲法の戦争放棄の理想は自己保存の原理に道を譲るべきである」という注目に値する文言を含んでいたが、同時に平和条約がその内に締結されるとの期待を表明していた。

2.吉田茂総理からのことづけ
昭和26年(1951)6月1日、私は財務官のまま、ワシントン事務所の所員兼務で杉山事務官と渡米を命ぜられた。これに先立って吉田総理に挨拶に行ったところ、総理は「電力その他の開発のため政府の金を借りてください。再軍備は頼まれても今はできないとはっきり断ってください。マッカーサー元帥のことを聞かれるだろうが、日本のためによくやったと言ってください」といい、また「日本の財政は今は駆逐艦一つ造っても破綻する状態だが、これから援助と電力などへの政府資金投下と減税で民力を養えばよくなると思う。自由党が絶対多数を持っている間にこれを利用して、本当に役立つことをしたい。いつまでも多数を持つ必要はない。それで日本の再建を成し遂げたい」と熱を込めて語られたので、感銘を深くした。
 やがて翌年4月28日にはこれまでアメリカ政府が保管していた日本大使館が返還され、日章旗が10年5か月ぶりでワシントンにひるがえったのであった。

3.日本の役割(外国との理解を深める)・・アジア開銀総裁を終えて
日本人は外国人から見て理解し難い。日本での会議は儀式にすぎない場合が多い。その証拠に居眠りをしていても事が済む。国際会議で外国人が居眠りしているのはあまり見たことがない。また日本人は内心反対であっても黙っている場合が多い。これは「モノを言えば唇寒し」とか、「口先よりも腹芸で」といった伝統によるものかもしれないが、外国人から見ると不正直だとみられる。反対なら反対と言い、議論して相手を説得するなり、納得したら妥協してもよいが、会議では黙っていてあとで「おれは反対だ」という態度は外国人には解せない。
 日本人が語学の才能がないというのは間違いである。才能ではなく努力と工夫の問題だと思われる。アジアの途上国の人から日本では大学でも日本語で教えているのですかと驚いたように言われたことがある。彼らは英語なりフランス語で大学教育を受けているから、我々より自由に国際用語を話す。日本の大学で日本語で教えるのは当然としても、国際会議で日本人だけモタモタしているのでは困る。

渡辺 武(わたなべ たけし、たける)

脚注
  1. ^ なで肩の狐 ロケ写真”. 2000年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月24日閲覧。
  2. ^ CHAKA ロケ写真”. 2000年6月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月24日閲覧。
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