森口華弘 もりぐち かこう

芸術

掲載時肩書染色家・人間国宝
掲載期間1976/12/07〜1976/12/31
出身地滋賀県
生年月日1909/12/10
掲載回数25 回
執筆時年齢67 歳
最終学歴
小学校
学歴その他
入社丁稚奉公(薬局)
配偶者見合い
主な仕事友禅工房、1日記憶喪失経験、悉皆屋(染色プロデュサー)、友禅作家40歳独立、京都友禅研究会、
恩師・恩人中川華邨 友禅師
人脈坂田徳三郎、疋田芳沼(日本画)、西田新三郎、安田商店、バルチウス(仏)
備考光琳の絵
論評

明治42年(1909年)12月10日 – 平成20年(2008年)2月20日)は滋賀県生まれ。日本の染織家で友禅染めの重要無形文化財保持者(人間国宝)。蒔糊技法を用いた友禅染め作品で知られる。華弘は昭和14年(1939年)独立した頃、東京の上野の帝室博物館で偶然衣裳の一部に蒔糊の技法を用いているのを発見し、これを砂子のように全面に施す発想を得、苦心して森口流の蒔糊技法を創案した。多彩の友禅をあえて淡色の濃淡だけで表し、また桂離宮の竹垣や修学院離宮の造作などから新しいイメージを発想して特異な模様を創造した。菊の花一輪を着物全体に描き、裾にいくほど花の形が大きくなり、しかも色調を変化させることで立体感を出す七五三技法などを編み出した。

1.私の制作特徴は単彩
私が25,6歳だから、結婚する少し前だった。京友禅というのはどれを見ても多彩である。友禅の技術は、何色も出せるというとことに特徴があるから、多色になるのは自然な成り行きで、それ自体に不服はないのだが、多色が、必ずしもすっきり映らないのが、気に入らなかった。模様を複雑に区分けして、十幾つなどと色を入れる。だが、ただ色数を増やせばいいともではあるまい。統一感のない多色はうるさいだけだ。
 そこで一つの色の調子でまとめることを思った。青なら青、もえ黄ならもえ黄と、色を限定する。その範囲内で、色同士の対比効果を置く。この場合大事なのは、色の整理は無論だが、構図や文様の形、量、大きさなどの綿密な計画である。これが、前もってよく出来ていないと、色一つの調子で効果的にまとまらない。従って、この色彩を生かすために構図、文様をしきりに研究して完成させた。この方法が私の特徴となった。

2.森口流の蒔糊技法の動機
昭和14年(1939)東京の折帝室博物館(現東京国立博物館)へ寄った。古美術品が、各部屋ごとに陳列してあって、衣装の部屋に入った時、樹木の下に斑点を散らしたような染のある図柄に引き付けられた。斑点を散らしたような染め、これが聞いていた撒き糊によるものだとは、すぐわかった。その着物は江戸時代の小袖で、江戸のころはそのように撒き糊が使われていた。今はなくなっているので、いかにも珍しく映り、好奇心を起こして、こういうのを友禅に用いたらどうだろう、思いながらしげしげと眺めやった。
 次に移ると漆器の部屋である。そこで蒔絵を見た。黒漆にきらめく砂子が、美しい。その砂子は、器全体にかかっていて、先ほどの撒き糊のように、部分的なものではない。
「そう、これでなくっちゃいけない。こんな具合に、友禅に使えばいいのだ」。撒き糊を蒔絵の砂子のように全面的に散らす図柄が脳裏に浮かび、同時に、それに取り掛かろうという意欲が、勃然と湧いた。

3.蒔糊技法の完成
京都は神社、仏閣数多く、散策の場所が多い。昭和15年(1940)のある時、桂離宮へ行った。そこで、やや疲れて腰を下ろし休んでいた。目の前に砂場があった。砂場を見るともなく眺めていた。と、その砂の表面が、次第に深い層をなしているように映ってくる。さながら、撒き糊を何回も重ねて出来上がっているかのようである。あっ、そうか、このようにすればいいのか。ふっと、その瞬間に閃いていた。
 それは撒き糊を何回も重ねてみるということだ。斑点散らしたような色が、深い味を持つとしたら、そういう方法以外にあるはずがない。そう思いつくと、じっとしていられず、直ちに家に戻り、実行に移した。
 白地に撒き糊して、桃色に染める。その上に撒き糊して、ねずみ色に染める。またその上に撒き糊して黒に染める。それから水洗いして糊を一切落とす。すると、黒い布地一面に白、桃色、ねずみ色が現れ、その三色が交錯し、微妙に響き合う。実行した経過は以上のごとくで、そこに私は撒き糊の深い味を見た。私は、撒き糊で実現したかった企画が、ついに成ったと思った。このときのこみ上げるうれしさはまた格別、何とも言いようがない。蒔絵からヒントをえたので「撒き糊」を、これ以後私は「蒔糊」と表記するようになった。

森口 華弘(もりぐち かこう、明治42年(1909年12月10日 - 平成20年(2008年2月20日)は、日本の染織家友禅染めの重要無形文化財保持者人間国宝)。蒔糊技法を用いた友禅染め作品で知られる。

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