店舗のコンセプトが重要

ファミリーレストランの草分け的存在である江頭は、大正12年(1923)福岡県に生まれる。昭和20年(1945)明治大学専門部を中退し、米軍基地でコック見習いを始める。22年(1947)に米軍基地の指定商人になり、理髪店、自動車修理、写真現像などよろずや商売を始め、25年(1950)キルロイ特殊貿易(のちのロイヤル)を設立し、社長となる。27年(1952)ロイヤルベーカリーを設立すると、ベーカリー、レストラン、アイスクリームの3事業に拡張を行なう。その事業が順調に伸び始めた矢先、脱税行為で摘発され追徴金と重加算税の支払いでとん挫するが、31年(1956)新生ロイヤルとして、ゼロから再出発する。

その後、昭和45年(1970)大阪万博の成功により、ロイヤルは九州地区から全国区の外食産業に乗り出す。事業も陸(自動車)、海(カーフェリー)、空(飛行機)の3分野で多角化を進め、工場建設やレストランの店舗展開も急拡大した。それは店舗の基本プランを、ロイヤルの名前にふさわしい一流の、アメリカの世界的なレストラン厨房設計者、スタン・エイブラスに依頼できたことだった。
彼はこのエイブラスから店舗のコンセプトに対して重大な助言をもらい、以後、店舗づくりは最初にテーマとストーリーを考えてイメージを固め、料理や価格、数字や原価計算はあとまわしにして成功する。彼は当時を振り返り、次のように語っている。

「イメージをつかみたいと年明け早々来日した同氏との初めての打ち合わせの日、『まず、あなたが今度つくる店のフィロソフィー(哲学)は何か』と質問を受けた。当時の私には理解がつかず『哲学はない』と言うと、彼は手にしていた鉛筆をポンと投げだし、『やめた。オーナーの哲学がない店の設計は引き受けられない』と言った。びっくりして、『あなたの言うフィロソフィーとは何かを教えてくれ』と聞き返すと、彼は時間をかけて説明してくれた。
そして『日本の国際ハブ空港のメーンレストランということは、直行便で行けるロンドンやニューヨークの空港のメーンレストランと隣同士。そこに引けをとらない料理や店をつくる。これがあなたの一番大切にすべき哲学ではないですか』と言ってくれた。私は大変感銘を受け、それからは一つ覚えのように、『この店のフィロソフィーは何か』を考えるようになった」(『私の履歴書』経済人三十五巻 66、67p)
*          *
店舗は立地場所により、客層や品揃え、価格帯、サービス形態などが変わってきます。
その店舗単位の主張個性であるフィロソフィー(哲学)やコンセプト(基本的な概念)を明確にして店舗づくりを行なわないと、立地のよさや店舗の品質を発揮できないおそれがあります。
チェーン店舗の場合は同一イメージが大事ですが、店舗に個性をもたせる場合は、フィロソフィーやコンセプトが大切と教えてくれました。