外国の社外役員

英国ICIでは当時、八人の社内役員の他に六人の社外役員がいた。日本人で海外の大企業の社外役員になるのはそのころは極めて珍しかったが、英国でもこの新聞発表は大きな反響と好感を持って迎えられた。

ICIの売上高は私が就任した年には約百億ポンド(当時のレートで約二兆五千億円)で、その半分は欧州、四分の一が米州からだった。この時期、日本およびアジア市場でのシエアを高めることがジョーンズ会長の目標だったようだ。略。

会長からは事前に社外取締役の役目として、役員会での討議で経験や経歴に基づく意見を述べること、役員会の討論に客観性を与えること、国際的な問題について日本またはアジアの立場から議論に参加すること、その他各種委員会に参加すること、などが示されていた。委員会というのは、会長の任免、役員報酬などを話し合うから、客観性と透明性を要求される性質のものである。
役員会は毎月一回開かれ、社外役員は少なくとも年九回は出席しなければならなかった。毎回相当分厚い資料に目を通さなければならないので、結構大変な仕事だったが、興味もあったから、私は六年間ほとんど休まずに出席した。略

定例会のほかに各種の委員会や議題に関係ある事柄についてのプレゼンテーションなどが随時行なわれる。年に二回、一月と七月に開かれる会長と社外役員だけの夕食会では、重要な戦略事項や人事などについて非公式な意見交換が行なわれる。
株主総会は毎年四月末に開かれ、大抵はホテルなどの大きな宴会場が会場になる。壇上には会長を中心に社外役員を含む全役員が並び、会場の前列には報道陣や監査法人代表などが席を占める。三百―四百人が出席したが、二時間ほどかけて議長である会長が二十近い質問にほとんど一人で丁寧に、時にユーモアをこめて答えるのだった。 質問は業績、政治献金、女性の地位、株価、環境問題など多様である。女性株主が出席者の半分近く占めていたこともわが国と違っていた。
(「私の履歴書」経済人三十四巻 70p)