とりなしの苦労

 前掲で「履歴書」完成の“工程”には3種類のケースがあると教えられました。それは、

a.「一から十」まで完全に原稿を自分で書く人
b.回数の仕分けなしに全分量130枚(400字詰め)を書き流し仕分けを編集に回す人
c.多忙で執筆する暇がなく喋るからそれを纏めてくれと言う人 ……の3つです。

しかしながら、aのケースでも、まったくそのまま活字にすればいい人だけではなく、途中で編集側に、「ここまでの内容はいいか、以降はどのような内容にするとよろしいか」など意見を聞きたがる人もいます。
 bでは、記者が仕分けし、完成形にした原稿に、執筆者が再度目を通し、確認して仕上げます。
 cでは、談話を速記あるいは録音し、それをもとに記者が原稿を書き上げます。そして最後に本人が手を入れて完成稿にします。

 経営者が登場する場合、その多くは業界のリーダーでもあり、関係会社の役員や業界関係団体の代表も数多く兼務しているため、執筆する時間など望むべくもなく、大部分はケースcとなります。この場合は、談話取材の内容を担当のベテラン記者が31~32回程度にまとめた上で、登場人物本人に直接了解を取りながら原稿を完成させますから、問題はあまり起こりません。

 問題が起きることが多いのは、ケースbの場合のようです。

登場人物本人も文章を書くのが好きであるため、自分が伝えたいこと、印象に残ったこと、この場を借りてお礼を述べたいことなどを、どんどん気のつくままに書いていきます。本人が、人付き合いの良い人、周りに配慮深い人であれば、自然と交友関係の記述が多くなると思われます。

この登場人物が書き流した気配りの原稿を、秘書や広報が、順序を整え、不足部分を補い、ストーリーのある原稿に直さなければなりません。

 登場人物は、執筆に興が乗ってくると、メモ用紙や料亭の箸袋、レストランの紙ナプキンなどに、思いついたキーワードや追加エピソードなどをメモしておき、「これを入れてほしい」と秘書などに渡したりします。そのうえ、掲載中であっても、家族や友人から助言を受けると、さらなる追加要望をします。それらを、締切時間と一回分の字数制限の中で追加修正して、記者に平身低頭でお願いすることになります。
 ところが、当日に新聞に印刷された内容が何らかの理由で意にかなっていないと、本人から「主旨が違っている。けしからん」と小言をいわれることになります。秘書から担当記者にこの旨、伝えると記者も新聞社側事情もあるため平身低頭で謝ってくれる。そのとき、秘書などは本人の言い分も、記者の事情もわかるのでこの「とりなし」で苦労することになりますから、お気の毒というほかありません。